東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2281号 判決
日本相互銀行
証拠を綜合すれば、控訴人は家業のそば屋が業績必ずしも良くなく、借財もあつたので、昭和二十九年初頃金融方面に詳しいという原田善を紹介され、同人は日本相互銀行小田原支店長と親しいというので、前記のように同銀行より控訴人所有の本件不動産を担保に金二十万円を借り入れることを同人に委任したところ、原田善の知人である支店長は既に更迭され、同支店から所期の金員を借り入れることも望み薄だつたが、一方その頃原田善は訴外信太昌訓との取引に関して同人に裏書交付した金額七十万円の約束手形の偽造であることが発覚し、同人より厳しくその跡始末を要求されていたため、本件不動産が少なくとも百万円の担保価値あるものと考えたことから、これを担保に控訴人の希望すみ金二十万円のほか自己の信太昌訓に対する金七十万円の弁償資金をも調達しようと企て、擅に信太昌訓に対して右不動産は原田善の控訴人に対する貸金の担保であるが、現在では原田善が自由に処分できるものであると説明して右登記済権利証等を交付し、融資先の紹介を依頼して被控訴人を紹介されたのであるが、その希望する金額の融資は受けられず、結局原田善は控訴人を代理し被控訴人との間に同年七月二十一日金八十万円を借り受けることとして、右不動産につき抵当権設定金銭消費貸借契約及び停止条件附代物弁済契約を締結し、被控訴人は右契約に基き控訴人の委任状によつて本件抵当権設定登記及び停止条件附代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記を受けたが、右貸付金は原田善の承諾の下に同人の信太昌訓に対する債務の弁済に充当され、控訴人の手中には遂に入らなかつたこと、被控訴人は右各契約当時信太昌訓及び原田善より同人が控訴人を代理して右不動産を処分する一切の権限を有する旨の説明を受け、同人が右不動産の登記済証、所要の委任状、印鑑証明等をも所持し、なお契約締結当時控訴人の借用証を差し入れることを要求したところ、原田善はこれに応じて直ぐに控訴人の記名捺印のある借用金証書を持参したので(証拠によれば本証書は原田善が控訴人方に赴き、日本相互銀行から貸付を受けられることになつたが、そのために必要な書類であると控訴人を欺いて要件事項の記入欄が空白のままの同証書に控訴人の印章の押捺を受けその後被控訴人にこれを交付する前に擅に金額、貸主名その他所要事項を自ら記入したものであることが認められる。)、原田善が前記のように各契約を締結するについて代理権を有することを信じて疑わなかつたことが認められる。而して以上のような事情の下においては、被控訴人は原田善が本訴各契約を締結する代理権を有するものと信ずるについて正当の理由があるものというべきである。してみると右各契約控訴人に対しても効力を生じ、これと符合し且つ控訴人の真正な白紙委任状を補充使用してなされた本件抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全仮登記の有効なことは明らかである。
また、証拠によれば被控訴人は約定弁済期である昭和二十九年十一月三十日になつても前記抵当債権の弁済を受けることができず、代物弁済の停止条件が成就したので、同年十二月四日控訴人に対し代物弁済契約に基き本件不動産の所有権を取得する旨の意思表示をしたこと及び被控訴人のための本件不動産所有権取得登記の申請はさきに被控訴人が原田善を通じて受領した控訴人の真正な白紙委任状を補充使用してなされたものであることが認められるから本件所有権取得登記も亦有効であるとして、控訴を棄却した。